ムジナモ栽培におけるいくつかの生半可な知識

ここではムジナモの栽培に関して、今まであまり目にする事の無かった事柄に関していくつか書いてみようと思います。

ただしあくまで私の生半可な知識ですので、専門家から見たら「こりゃ違うだろ!」と言う事もあるかもしれません。そのような場合は遠慮なくご指摘願えれば幸いです。


◎Column 1 ワラの役割

ムジナモ栽培で重要な事の一つに水質の調整がありますが、水質調整には昔から「ワラを適当な長さに切って水に沈める」と言うのが定番になっています。ワラを入れるのは水を弱酸性にするため、ミジンコを発生させるためと言われていますが、何故ワラを入れると水が弱酸性になるのか?など、その説明はあまり見たことがないのではないでしょうか?

そこで少しそのワラの役割について考えてみたいと思います。

ワラには多くの枯草菌(バチルス)が存在しています。この枯草菌は水に触れると急速に増殖して、水の汚れや腐敗の原因となる有機物を積極的に分解して水質の浄化、安定に役立つ菌です。枯草菌はなにもワラだけに存在しているわけではなく、枯れ草や土壌中、また空気中など自然界のいたるところに存在している細菌ですが、特にイネ科草本の枯れ草にはこの枯草菌が多数存在しているそうです。余談ですが、納豆を作る納豆菌はこの枯草菌の一種です。

ワラ自身もこの枯草菌の働きによって分解され、その過程で継続的な二酸化炭素の放出と、フミン質の生成が起こります。この二酸化炭素とフミン質は両方ともムジナモの生長にとって大切なものです。水中の二酸化炭素の溶解量が増えれば水は弱酸性に傾き、さらに分解によって生じたフミン酸やワラから溶出したタンニンによっても水は弱酸性になります。

また枯草菌が増殖することで、細菌をえさとするゾウリムシやミジンコなどの微生物も増殖してきます。これらの微生物はムジナモのえさとなるのです。

 このような働きによってワラを入れることで水は澄んで弱酸性になり、ミジンコなども増えてムジナモにとって最適な環境を作る事が出来るわけです。

この枯草菌は好気性細菌で、酸素が充分にある環境下でその効果を発揮します。つまりワラの投入時には十分な灌水などにより水中に酸素を供給し、好気状態を保つ事が大切なのですが、実際には酸素が足りずに嫌気状態となり、枯草菌ではなく腐敗菌が繁殖して、ワラが腐敗して逆に水質を悪化させてしまう事も良くあります。

枯草菌は熱に強い芽胞(高温、乾燥など劣悪条件に耐える極めて耐久性の高い胞子に似た細胞)を形成することが知られています。この芽胞は煮沸しても死滅しません。そのためワラを煮ると、枯草菌以外の不要な雑菌などの多くは死滅しますが、枯草菌の芽胞は生き残ります。この煮汁を置いておくと、芽胞が発芽して枯草菌が優占して繁殖する水を得る事ができます。ですからムジナモ栽培でワラを使用する場合には、そのまま水に入れるのではなく、一度ワラを煮て、その煮汁とともに入れるのが良いかもしれません。



◎Column 2 抽水植物による水質浄化

ムジナモ栽培では水質安定のためにアシやマコモなどの抽水植物を水鉢に植えつけるのが定番になっています。ではこれらの抽水植物はなぜ水質を安定させるのに役立つのでしょうか?

アシやマコモなどの抽水植物には優れた水質浄化作用があると言われて、河川や湖沼などの水質浄化事業にも用いられたりしています。
 水中の汚れの原因となる有機物は主に窒素とリンです。窒素は土壌中に存在するバクテリアによって無害な無機塩へと変えられます。濾過バクテリアには硝酸菌などの好気性細菌と脱窒菌などの嫌気性細菌があり、それぞれが作用しあって効果的な水質浄化ができるのです。具体的には有機態窒素は各種微生物によりアンモニアへ分解され、このアンモニアは亜硝酸細菌により亜硝酸へ、さらに硝酸菌によって硝酸塩へと酸化され、硝酸塩の段階で植物によって養分として吸収されます。
 この反応は酸素が豊富な好気的条件下で起こりますが、逆に酸素が少ない嫌気的条件下では脱窒菌が硝酸態窒素や亜硝酸態窒素を窒素ガスへと変化させます。この脱窒によって生じた窒素ガスは、気体として直接水中から空気中へ放出される他、植物の通気組織を通って空気中へと放出されます。

水底の土壌中は通常酸素が少なく嫌気状態になっていますが、抽水植物は土壌中に根を張り巡らせ、その優れた通気器官によって根から土壌中に酸素を供給しています。このことにより抽水植物の根の周囲には酸素が豊富な場所と酸素が少ない場所がモザイク状に存在する事となります。この酸素が豊富な場所と酸素が少ない場所にそれぞれ好気性細菌、嫌気性細菌が繁殖することによって効率的な水質浄化が行われるわけです。

同様に有機態リン酸も細菌によって分解され無機リン酸となり、硝酸塩と同様に植物によって栄養分として吸収されます。またリン酸は土壌中の諸金属成分と結合して不溶性の化合物として土壌に吸着されます。

さらに成長した植物体を刈り取ることにより、その成長過程で植物体内に吸収、固定化された窒素、リンなどを系外へ取り除くことが出来ます。
 注意しなければいけないのはせっかく植物体内に吸収、固定化された窒素やリンも、植物が枯れて水中で分解すればまた水中に溶け出してしまうと言うことです。そのためこれらの抽水植物は秋になって枯れ始めたら刈り取ってしまうことをお勧めします。

このようなメカニズムによって、抽水植物を植えることで水を浄化し、水質を安定させる効果があるのです。

また弱いながらも植物体からは藻類の増殖抑制物質が分泌されており、アレロパシー的忌避作用によって藻類の増殖を抑える効果も若干あるようです。